家、家庭、家族 [それぞれの風景]

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先日、所用も含めてしばらく名古屋に行っていた。

そのうちの2日間、二つの家を訪ねた。

今日はそのうちの1軒の話。

その家は、わたしが北京留学中、もっとも頼りにしていたお姉さんの家。
現地ではたった半年しか一緒でなかったが、部屋が隣でよくご飯を食べさせてくれた。

年は6つほどちがったが、なにかあるとよく相談に乗ってくれたように記憶している。
記憶というのは不思議なもので、わたしが「よく相談に乗ってもらい頼りにしていた」
と話をすると、お姉さんは「わたしの方があなたといると気持ちが落ち着いたの。
それにわたしなんて頼りになるってタイプじゃないわ!」なんて言う。

たしかに・・・そういば・・・ゴキブリが出たときも、
お姉さんは「頼りになった」・・・とは言いがたかったなぁ(笑)。

・・・(回想)・・・



わたしたちはあり得ない大きいソレを見つけたとき、パニックになった。
だって、日本では見たことのない大きさだったから。

他の部屋からたまたまわたしの部屋に遊びに来ていたYさんは部屋の端っこ側を向いて
固まったまま動かなくなった。(この時点でもう戦力外)

こんなときに限って、ルームメイトの怪力少女JMは旅行中だし、もうこうなったら
頼りになるのは隣のお姉さんしかいない。。。と、上からそれが飛び立たないこと
だけを祈って、いそぎ部屋の内線をまわした。

「お、おねーさんっ!!アレがあらわれた!!アレって言ったらあれだよ~~!!!!!!
(今までゴキブリという単語を使ったことがないので、中国語でなんというかわからない)
黒くてー!硬くてー!光ってるー!大きいんだよ!そして、飛ぶのっ!!!!!
とにかく今すぐきてほしいっ!ガチャッ」

おねえさんは
「いいものがあるわ!専用の退治する「ブツ」があるから、今すぐ渡しににいく!!!!!」

と言って、本当に5分後、ノックして腰をかがめながら部屋に入ってきた。

その手に握られているのは・・・

  「ゴキブリホイホイ」



ホ・・・ホイホイってッ!!長期戦、やる気スか・・・姉さん!!!?
        もっとほら、キンチョールとかさ、なんかシューっとやるやつでさ・・・・。

首を横に振り、わたしは視線で即刻ホイホイ案を却下しつつ、天井を指差した。

(ところで、姉さん、今姉さんの頭の上にいるのがそうなんだけど。)



姉さんはその指の先を追って視線を上げ、途端にぎゃあ~っと悲鳴をあげて、
Yさんの隣に固まった。 (戦力外2)

結局、ここは・・・わたしがなんとかするしかない、、、!!と、
意を決して、わたしは旅行中でいないルームメイトJMのバドミントンのラケットをとりだし、
それで ばちこーん!とやった。

(もちろん命中せず。やつはどこかの隙間に姿を消した。
ラケットももちろん何事もなかったかのように、もとに戻された。)

そんなわけで、姉さんは、気は強いんだが、怖がりで、面倒見がいいんだけど、
意外に それが的を外しているところが、最高にキュートな女性だった。

そしてなによりも言っておかなければならない。
姉さんは、一目見たら、わたしが女性でも思わず視線で追ってしまうような美しい人だ。

・・・(回想終)・・・

前置きが長くなったが、その姉さんが今は日本で結婚して名古屋にいる。
(書き忘れていたが、姉さんの国籍は韓国だ。だから留学時代はお互い母国語でない
中国語で意思の疎通をするのが普通だった。今は日本に住み旦那さんも在日3世だから、
姉さんは流暢な日本語を話す。いや、正確に言うと、完璧な名古屋弁を話す。)

今回姉さんのところを訪ねたのは、姉さんの息子に会うためだった。
長男は5歳。2年前にわたしの実家に来たことがある。
(ちなみにわたしは、動物と2歳~5歳の子供からの人気には定評がある。
どういうわけか彼ら(基本的に同じ)を喜ばせるコツをわたしは心得ているのだw。)

しかし、今回はその息子のほかに、もう一匹いた。。。 
生後三ヶ月の次男坊。
いわゆる「赤ん坊」という部類にはいるやつだろう。。。

今回、この赤ん坊ががわたしにとって、一番得体が知れなくて、
なぞが多く、コワイ存在であった。

姉さんは「かわいいでしょう~」と何度もわたしに赤ん坊を抱かせようとしたが、
わたしは、あの頭の重すぎる生き物は、どうしても慣れなくて、こわくて、恐ろしくて
うまく抱えることができなかった…2歳児になれば、猫とおなじなのに。。。

そして赤ん坊の彼は、たいていのときは何を考えているのかわからない顔をしている。
たまにいきなりニマっとする。
かとおもえば、急に身体中固くしてみたり、手足を無差別に突き回して、
その後、おかしいのではないかと
いうくらい息が荒くなったりしている。
そして泣く。寝たいならそのまま寝ればいいのに、泣く。

まったくもって予想がつかない。こわい。
だが、姉さんは、あの赤ん坊が何をいっているかわかるという。そして会話までしている。

これがまた、わたしにはものすごく奇妙な情景に映ってしまい、
母子が異次元の住人に見えた。

その夜・・・わたしが寝ていると
あの赤ん坊が部屋のふすまを開けてわたしをジッと見ている・・・夢を見た。
怖くてわたしは動けなくなり、目が覚めると、体中が汗でびっしょりだった。

しばらくそのままなにか恐ろしい夢をみていた気がするが、うつらうつらとしているうちに、
朝になっていた。

そして、朦朧とする頭の上で、スリッパの音が廊下を行き来する。。。。。。
・・・これは、、、遠い記憶にある音。。。
母の、、、お母さんの朝の音。。。

お母さん・・・?ああ、違う。ここは姉さんの家だ。。。そうか、あの足音は姉さんの足音。。。
確かにその音は、母が朝の家事をするときの足音だった。

そうか。姉さんは、母になってしまったのだ。
そのことが余計にわたしの胸を複雑なものにした。
なんともいえない、恥ずかしいような窮屈なような認めたくないような感情だった。

わたしの姉さんだったのに。
おかしなことだが、わたしは赤ん坊に嫉妬していたのかもしれない。

一日中無条件に姉さんを独占している赤ん坊が、頭ではそういう生き物なのだと
わかっていても、姉さんを母にしてしまう、という現実を感情が理解していなかった。

あの足音のうしろには、まぎれもなく「家族」があり「家庭」があった。
そしてあの家は、姉さん家族を包む、明るく風通しの良い安心な家で、、、
「母のいる家」とはあんな家なんだな、、、
家具ひとつ、小物ひとつにも、子供への慈愛が溢れ、こぼれおちる。

だけど、ふと見えた姉さんの化粧品、姉さんの小さなポーチ。
あの頃の姉さんのままの趣味だったよね。

・・・人にはいろんな顔がある。
女性には、母の顔、妻の顔、娘の顔、女性管理職の顔、女友達の顔、オンナの顔。

家と家族と家庭と。
それは、本当にそれぞれの「宇宙」だ!



今わたしは家に帰る。電車の中で思う。

わたしは私の家に帰ろう。

わたしとOちゃんの帰る場所。
それがわたしたちの家。わたしたちの宇宙。

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